子どもの頃、『幻獣辞典』というタイトルに惹かれて、すごく欲しくなって、両親に取り寄せてもらった。お菓子やおもちゃはなかなか買ってもらえなかったけれど、本は、どんな本も欲しいものは購入してもらえた。本は一番身近な「世界」だったし、自分という人間が何を知りたくて、何を感じたくて、何を見たいのかということを、読み進めるその思いの道の中で教えてくれる大切な存在だった。
『幻獣辞典』は、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの著作。初めて著者を知った思い出深い作品。小学生の時に彼の世界観を知ったことで、自分の中の他者の世界観との違い、違和感を自然なこととして、それでいいんだということで受け入れられた。
この世界のどんな事象も結局は、一つの何かに帰っていく、そんな感覚が生まれたときからあった。この現実世界が夢のようであり、だからと言ってその価値に中世的否定で捉えるんじゃなくて、ある種の意識の遊び場のようなところ、一度ではない既視感的世界、などなど。いつもどこか傍観して同時に感情の揺らぎを楽しんでいる自分もいる。
ボルヘスの作品には、最後には一つの何かに帰還していく意味の文章が書かれていて、私はそれを見るとすごく安心した。この世界の仕組みが明らかにされているような、そのおかげで安心できた。自分は1人じゃない、その感覚。恋人がいても、家族がいても、自分以外の他者では埋めることができない、(そもそもそれは他者存在の役割ではないんだけど)見えない繋がり、見えない一つの帰還先とのつながりを感じている人が、この地球上にいたことの安心感。自分は自分だけで成立していない感覚を知っているボルヘスの存在によって、また一つの何かが証明されたようでうれしかった。